ミツバチのささやき
非常に美意識の高いとある友人が、わざわざDVDボックスセットを購入したとあっては、たいそう美しい映画なのであろうとは予想をしていたものの、もしかしてアカデミックすぎて(もしくは前衛的過ぎて)私にはその良さが理解できないかもしれんな、と思いながら見たのです。しかしながら、予想をはるか越え、私の琴線にもビジビシ触れてしまい、おもわずうなってしまいました。
ビクトル・エリセ監督の名前は正直全然知らなかったので、何の前情報も無しに見たのが余計に衝撃度を高めることになったような。10年に1本しか映画を撮らない(あるいは撮れない)スペインの巨匠である彼の、73年の作品「ミツバチのささやき」という映画。舞台は40年代の片田舎、主人公アナと姉のイザベルが公民館での映画の上映会に出かける。そこで観た「フランケンシュタイン」の正体は「精霊」であり、村はずれに住んでいる、と姉に教えられたアナは、村はずれに打ち捨てられた廃屋に心惹かれ、足繁く通うようになる。
大人になってしまうと決して見ることができなくなるもの。好きなときにいつでも、自由に空想の世界の扉を開くことのできるごく限られた時期の尊さ。成長と共に空想よりも現実世界に比重をおくようになり、いつしか空想の世界の扉の鍵を失くしてゆき、ついにはその扉の在りかすら記憶から失われてしまう。けれど少女アナの無垢な瞳を通して、私たちはかつての子供時代の気持ちを少しだけ取り戻すことができる。
瞳を閉じて、「ソイ アナ・・・(私はアナよ)」と話しかければ、フランケンと会話することができるの。
そう信じるアナの大きな瞳は美しく澄んでいて、どこまでも純真で。なにか胸をぎゅうと掴まれた気がしたのです。廃屋の暗闇に少しおびえながらもその中に何かを探す姿、使われてない古びた井戸を覗き込む姿、自分だけの秘密の世界のなかで、彼女は必至に目を凝らす。けれど、アナもきっと大人になればその世界を忘れてしまうのだろう。そんな、なんとも言えないせつなさと、映像美が際出つとても素敵な作品でした。
劇中、大人目線から見れば「危ないっちゅーに!」と思わず注意をしたくなるような遊びが続々登場します。焚き火をジャンプして越えたり(多分髪の毛燃えてます)、お父さんがいないのをいいことに髭剃りをいたずらしたり、ママのオーデコロンを顔面に噴射したり。死んだフリして(しかもかなりリアル)妹を本気で驚かせたり。姉妹の一挙手一投足に、こちらはハラハラしっぱなし。
また、アナの父の研究対象として随所に登場するミツバチが、活発な「生」を象徴しており、暗く沈んだ雰囲気の片田舎と対峙するモチーフとなっています。姉妹が住む家の様子や洋服あたりの美しさも見所として外せないポイント。ぜひ繰り返し見たい映画です。
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